@【宮】(主音)の意識と「音階の骨組み」  右のグラフは、尺八1尺8寸管の筒音(乙ロ)に含まれる倍音を、実際に演奏して測定したものです。  左端のピークが基音(D4:293.7Hz)で、右方向へ順次 2倍音(D5:587.4Hz)・3倍音(A5:881.1Hz)・4倍音(D6:1174.8Hz)・5倍音(F#6:1468.5Hz)・6倍音(A6:1762.2Hz) ・7倍音(C7:2055.9Hz)・8倍音(D7:2349.6Hz)・9倍音(E7:2643.3Hz)…数十次もの倍音が含まれています。 このように、数多くの音が組み合わされているにもかかわらず、たった一つの音(乙ロ)として聞こえるのは、 それぞれの倍音が ”基音と単純な整数比の振動数”で組み合わされ成っているためです。 つまり、 ”完全に調和するハーモニー”なのです。このような音程の組み合わせを「純正律」と言います。  これらの 「純正律」は、簡単に演奏し聴いて確かめることができます。 手孔を全閉した筒音で、息流を順次速くしてゆくと、乙ロ(基音)→甲ロ(2倍音)→甲チ(3倍音) →甲ヒ(4倍音)の 「純正律」を鳴らすことができます。音楽的に表現すると、 乙ロ(基音)←オクターブ→甲ロ(2倍音)←完全5度→甲チ(3倍音)←完全4度→甲ヒ(4倍音) つまり、音階の骨組みとなる音程関係です。その中心に意識される音が【宮】(主音)であり、 【宮】(主音)の完全5度上に対を成すのが【徴】(属音)となります。  人の聴覚は、オクターブ関係にある音を同一のものとして認識する性質があるので、 「甲ロ(2倍音)←完全5度→甲チ(3倍音)←完全4度→甲ヒ(4倍音)」の音程関係は、 「乙ロ(基音)←完全5度(振動数比2:3)→乙チ←完全4度(振動数比3:4)→甲ロ」と 同一の音階として認識されます。そして、【宮】(主音)の意識が【徴】(属音)に転じて(転調)、 【宮】(主音)の上に完全4度を成す新たな音階の骨組【角】(下属音)を創ることができます。  邦楽では、【宮】←完全4度(振動数比3:4)→【角】となる音階を、「律の音階」と呼びます。  筒音での倍音は、甲ヒ(4倍音)→大甲ツ(5倍音)→大甲チ(6倍音)をも鳴らすことができます。 この音程関係は、「甲ヒ(4倍音)←長3度→大甲ツ(5倍音)←短3度→大甲チ(6倍音)」 いわゆる「ド・ミ・ソ」のハーモニーです。オクターブの同一性から、下記の運手と同じになります。  ここで、【宮】←長3度(振動数比4:5)→【呂角】となる音階を、「呂の音階」と呼びます。 ●尺八を「一音」鳴らすときに、その音色には、「音階の骨組み」となる音程関係が含まれているのを意識することが大切です。 ●左図のように、音程関係を 図形でパターン化すると、覚え易く理解が深まります。